税理士業界の就職事情

2019年1月11日

薄給・激務の割に税理士業界は就職希望者が後を絶たず、この過剰な需要が薄給・激務に拍車をかけます。特に、税理士業務の未経験者は経験を積むこと自体が難しく、就職は困難を極めます。ここでは筆者の知る税理士業界の就職事情についてお話をします。

1. 税理士業界の年収相場

税理士事務所又は税理士法人に勤めた場合の年収相場は、①事務所の規模、②資格の有無、③役職によって変わります。目安としては次のような年収帯になることが多いと思います。

規模従業員数税理士の年収職員の年収
BIG41,000人超700万円~3,000万円400万円~700万円
準大手100人超600万円~2,000万円300万円~600万円
中堅30人超550万円~1,200万円250万円~500万円
小規模10人超500万円~800万円200万円~350万円
個人事務所10人未満400万円~600万円150万円~250万円
事務所規模に応じた繁忙状況・税理士及び職員の年収

一般的に、専門性の高い税理士業務や成功報酬型の税理士業務をメインに取り扱っている事務所の所得水準は高い傾向にあり、逆に、月次顧問などの定型業務をメインとしている事務所の所得水準は低い傾向にあります。

2. 一年間の税務職員の求人動向

税理士業界は、常に人手不足の状態にあるため、基本的に一年を通して比較的安定して求人の募集があります。

税務職員の求人数の増減動向
税務職員の求人数の増減動向

ただし、税務職員≒税理士受験生というところもあるため、税理士試験と連動して税務職員の求人は増減する傾向にあります。1年間の求人募集の状況としてはだいたいどこも次の通りかと思います。

  • 2月~3月
    この頃は確定申告真っ最中のため求人数は大きく減ります。
  • 4月~5月
    確定申告が終わり、税務職員の中では受験に専念する人(退職する人)も出てくるため、比較的4月頃は税務職員の求人数が増えます。
  • 6月~7月
    試験前のため、人員の移動が少なくなり、求人も減少します。
  • 8月~9月
    試験が終わった頃から税務職員の求人が増えます。試験終了後は新しい事務所へ移動する人も出てくるため、それに連動して募集も増えます。
  • 10月~11月
    9月と比べると求人数は減少しますが、この時期もそれなりに求人はあります。
  • 12月~1月
    合格発表を経て事務所移動を考える人が増えるため、求人が増えます。

3. 採用活動で重視されるもの

税理士業界は規模の大きな事務所を除けば、まともな新人研修は無いと言ってよく、基本的にはOJTによる教育が主体となります。そのため、規模の小さい事務所ほど即戦力が求められます。税理士資格が無くとも、税務職員としての経験があれば日本全国どこでも働けるほど、経験者に対する求人意欲は高いものです。

対して未経験者にとっては最初の就業先を見つけるのがとにかく難しく、年齢が40歳を超えてくると、ほとんど求人がありません。年収も非常に低く、月次顧問を主体とする税理士事務所であれば、年収が300万円を超えれば御の字といえるほどです。むしろ、その年収であっても採用されないのが未経験者の悲しい現実です。

とはいえ、必ずしも経験だけで決まるわけではなく、採用に当たって経験以外に重視される点もありますので、その点を説明していきます。

No採用活動で重視される項目書類選考面接
(1)年齢★★★★★★★★★
(2)社会人経験★★★★★
(3)合格科目と合格科目数★★★★
(4)日商簿記★★★
(5)FP技能士★★
(6)宅地建物取引士
(7)英語力
(8)人柄・性格★★★★
(9)ITスキル★★★★
(10)学歴★★
(11)外見・風貌★★★
採用活動で重視される項目

(1) 年齢

税務経験以外で最も重視されるのが年齢です。年齢が若ければ採用されやすく、年齢が30歳を超えてくるとマイナス評価になってきます。40歳を超えると書類選考すら通らなくなります。

20代前半20代後半30代前半30代後半40歳以上
大きくプラスプラスややマイナスマイナス大きくマイナス
年齢に応じた評価点

(2) 社会人経験

先の通り、税理士業界では教育システムが未整備であるため、社会人経験がある場合は評価されます。

特に金融機関で働いていた方は大きく評価される可能性があります。

(3) 合格科目と科目数

基本的に合格科目数が多いほど有利です。未経験者であっても合格科目数が4科目以上ある場合は確実に有利に働きます。もし、法人税を含めて3科目以上合格していれば、30代後半であっても転職先が見えてきます。

なお、合格科目としては「法人税法」が一番価値があり、それ以外はさほど大差ありません。資産税特化型事務所であれば「相続税法」の合格はプラス評価されるでしょう。

(4) 日商簿記

工業・製作立国の日本では、まだまだ「物を作る」というメーカー型の企業が多く、日商簿記で学習する原価計算ができる人が重宝される傾向にあります。

税理士試験では「原価計算」が学習の範囲から外れるため、原価計算ができない人がそれなりにいます。そのため、日商簿記2級以上に合格している場合は、転職活動で有利に働くことがあります。

(5) FP技能士

意外とFP技能士はプラス評価されます。FP2級以上あると良いでしょう。

(6) 宅地建物取引士

資産税以外では特に価値はありませんが、資産税では多少プラス評価されます。

(7) 英語力

BIG4や国際税務を取り扱っている税理士法人では重宝されます。TOEICで850点以上あればプラス評価されます。

(8) 人柄・性格

結局のところ面接で最後に重要になるのは、人柄や性格です。「清潔感」や「誠実さ」、「明るい雰囲気」、「笑顔」といったところが面接官の印象に残ります。

このあたりは一般の企業に応募する場合と比べても何ら変わりはありませんので、市販の面接本を1~2冊読んでおくと良いでしょう。

(9) ITスキル

近年はWEBを利用した広告戦略を推進する税理士法人が増えていますので、WEBやSEOについてノウハウがある方は優遇される傾向にあります。

ただし、プログラミングスキルは税理士業界では不要のため評価されません。

(10) 学歴

学歴は無関係が定説ですが、やはり良い方が有利です。年齢が20代前半+有名私大というスペックであればBIG4も狙えます。特に所長や代表が高学歴であればあるほど学歴は見られる傾向にあります。

(11) 外見・風貌

外見は意外と重要です。男性であればイケメン+高身長、女性であれば美人・可愛いというのは好かれます。

また、外見よりも重要なのは「清潔感」です。アイロンをかけたシャツを着ている、スーツもピシッとしている、という社会人として当たり前な格好をしていると意外とプラスの印象を与えます。なぜなら、そうでない人が想像以上に多いためです。

参考:履歴書は手書きかパソコンか?

最近はパソコンで作成された履歴書をよくみますし、履歴書は手書きか?パソコン作成か?の議論も耳にします。税理士業界でどちらが良いのかと言えば、手書きがベストであり、パソコンでも他の内容が良ければ書類選考は通る、というのが答えです。

個人的には、学歴や職歴、資格、自己アピール等はパソコンで良いと思いますが、氏名や作成日は自筆が良いと思っています。理由としては、パソコンで全ての内容が書かれた履歴書は「丁寧さ」を欠く印象を与えるためです。一部でも自筆があると丁寧さは伝わります。また、氏名の横に認印で押印するとなおベターです。これから応募をする方は参考にしてください。

4. 就職活動・転職活動の方法

就職活動・転職活動は基本的に次の3つルートのいずれかになるかと思います。それぞれ良い点、悪い点があるため簡単に解説します。

  1. 自社HPからの応募
  2. 求人サイトからの応募
  3. エージェントを通じた応募

(1) 自社HPからの応募

税理士事務所や税理士法人のホームページを通じて応募する場合、採用する側からすると、紹介料や広告料等のコストがかからずに採用することができますのでメリットがあります。(3)のエージェントを通じた採用よりも気軽に採用できます。

一方、応募者の情報は履歴書が全てになりますので、年齢が若い、税務の経験がある、といった履歴書で分かるプラス評価が無ければ書類選考が通りにくいというデメリットがあります。税務経験が未経験で30歳後半の方は、自社HPからの応募では履歴書や職務経歴書をよほど上手に書かないと書類選考すら突破できないでしょう。

(2) 求人サイトからの応募

ハローワークやIndeedなどの求人サイトからの応募は基本的に自社HPからの応募と一緒です。ハローワークの場合は、職安の担当者が電話越しで多少企業側に求職者のスキルなどを説明してくれますので、自社HPからの応募よりも通りやすい可能性があります。

(3) エージェントを通じた応募

税理士業界の転職エージェント
税理士業界の転職エージェント

税理士業界は特殊な業界であるため、税理士又は税務職員の求人に特化したサイトもあります。大手転職サイトも税理士業界の求人に特化したコンサルタントを設置しているため、きめ細かな対応をしてくれます。例えば次のようなエージェントがあります。

(1)の自社HPからの応募とは逆に、求人側からするとエージェントを通じた採用は採用コスト(相場は年収の50%~100%)がかかるため、採用には相当に慎重になります。したがって、ちょっと良いからと言って採用することはありません。

他方、エージェントを通じた求職活動では、キャリアコンサルタントが事前に自分の情報を企業側に情報提供してくれますので、年齢や職務経験を売りにできない人にとっては、自分で応募する場合と比べて格段に面談までたどり着ける確率が高まります。

特に、税理士業界未経験者の場合は、税理士業界での自分の売りが分からなかったり、上手く説明できなかったりする場合も多いと思いますので、キャリアコンサルタントと話をすることで、自分の強みを再確認し、面接でもその経験が奏功するはずです。

私の転職活動

私は30代後半からの税理士業界への転職でしたので、自社HPからの応募では書類選考が全く通りませんでした。それもあって、エージェントを通じた転職活動へ切り替えたのですが、キャリアコンサルタントとの面談を通じて、税理士業界における平均的な年収や働き方、職種、企業側が求めるスキルを聞け、これが非常に良かったと思います。

業界の平均年収を知ることで、自分の年収設定を適切にすることができ、また、自分のスキルで好条件で働ける場所もイメージできました。また、一定数の税理士法人の代表者が不動産鑑定士やWEBスキルを求めていることが分かりましたので、面談ではそれをアピールし、結果として、ほとんどの面接で内定を頂けました。

5. BIG4への就職・転職

トーマツ、PwC、EY、KPMGという超大型の税理士法人を税理士業界ではBIG4といいます。BIG4は知名度もさることながら、仕事内容、年収、福利厚生、オフィスグレードなど、他の税理士事務所や税理士法人には無い良さがあるため、税理士業界で働く多くの人が一度は目指す職場となっています。

私自身はBIG4で実際に働いたことはありませんが、BIG4で働くチャンスが2度ほどあり、また、BIG4で働く友人も多いため、それなりに内情を知っています。

色々なサイトでBIG4への転職について語られていますが、個人的に総括するとBIG4で働くパターンは概ね次の5パターンに限られていると思います。

  1. 高学歴の新卒入社
    関東で言えばMARCH以上、関西で言えば立命・同志社以上であればチャンスがあります。
  2. 一部上場企業経験の若手(20代中盤まで)
    外資系企業や日銀、大手商社などであれば入りやすいでしょう。
  3. 税理士有資格者かつ税理士業務経験者(30代後半まで)
    税理士として3年~5年ほど経験があるとチャンスがあります。
  4. 他の税理士法人からの合併による入社
    意外と多いのがこのパターン。勢いのある税理士法人にいるともしかすると合併され、BIG4に入れるかもしれません。
  5. 同じグループ内の企業からの転籍
    例えばFASや監査法人などのグループ内の他の会社へ入社し、転籍希望を出すことで入社できる可能性があります。

上記のいずれにも該当しなければ、現実問題としてBIG4への入社はほぼ不可能です。たいていの場合、書類選考で落とされます。

6. 最後に

私も税理士業界へ転職する際は「いつかはBIG4」と思っていました。なぜなら、薄給・激務の税理士業界で唯一クリーンかつ高収入を想像していたためです。

ところが、BIG4以外の税理士法人で働くことで、BIG4では得られない経験を積むことができ、また、そこでは年収が数千万~億といった人がごろごろいる職場であったため、ある意味、自分の固定概念はあっさりと拭い去ることができました。

税理士業界は薄給・激務で大変な世界ですが、非常にやりがいのある仕事が多いのも事実です。未経験者には厳しい世界ですが、丁稚奉公(でっちぼうこう)の期間と割り切り、どこでも良いのでとりあえず働いてみてください。その一歩が明日への更なる一歩に繋がります。

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