社会保険労務士と社会保険労務士試験

2019年1月8日
法律系資格

ここでは、労務の専門家である「社会保険労務士」について、その資格、仕事内容、年収、試験の難易度・合格率を紹介しています。

1. 社会保険労務士(社労士)とは?

1. 概要

社労士は、労務の専門家として国に認められた国家資格です。

社労士の代表的な仕事には独占業務でもある「労務関係書類の作成」や「給与計算書類の作成」などがありますが、この他にも次のような仕事も社労士が行っています。

  • 申請書等の提出代行
  • 申請等についての事務代理
  • 都道府県労働局等における個別労働関係紛争のあっせん手続の代理
  • 都道府県労働局における育児・介護休業法等の調停の手続の代理
  • 個別労働関係紛争解決手続における当事者の代理
  • 労働管理や社会保険に関する相談及び指導

従来の仕事は「手続き代行」や「書類作成」などの事務方の仕事の多い社労士でしたが、最近では「労使間の紛争の防止や調整」「退職金や給与等の規則に関するアドバイス」など、コンサルティング業務が増えてきています。

2. 知名度

資格保有者の数は全国で約40,000人と比較的多く、知名度の高い資格です。

特に、女性に人気の資格で、開業社労士の1/3が女性と、侍業のなかでは最も女性比率の高い資格となっています。

3. 年収

社労士の年収は、勤務社労士か?開業社労士か?で大きく異なります。

開業労務士の場合は、ボリュームゾーンが600万円~1,000万円と高く、一部の社労士は年収3,000万円超と超高収入となっています。

一方、勤務社労士の年収は、総じて低く、300万円~500万円程度がボリュームゾーンです。

なお、社労士の需要は一般の事業会社からもあり、人事部や総務部で年収600万円~800万円程度の募集も比較的多く見られます。ただし、最低でも5年以上の実務経験が必要とされます。

2. 社労士試験

1. 難易度

超難激難やや難普通

社労士試験は、厚生労働省主催で、年に1度、8月下旬に実施されています。試験の方式は「マークシート形式」となっています。

なお、社労士試験はマークシート形式の試験ですが、単なる択一試験ではなく、20個の回答群から1つを選ぶという解答形式であったり、5つの選択肢の中で正しいものは何個?といった個数問題による出題のため、関連法規を完全に理解していないと正解に結びつけることができず、非常に難易度の高い試験となっています。

また、社労士試験の合格率は数多ある資格試験の中でもダントツに低く、直近10年間の合格率の平均は6.5%と、他の国家試験の合格率と比べてもの低い合格率となっています。

学習範囲も「労働基準法」や「雇用保険」「健康保険法」などの労務に関する10個の法律からなり、かなり細かい内容が問われるため、合格に必要となる学習量もおのずと多くなっています。

なお、肝心の試験の難易度ですが、社労士試験の難易度は国家試験の中でも難しい方の試験であり、資格くらぶの中の分類としては、上から3番目の難に分類されます(理由は下記)。同じような難易度の試験には「中小企業診断士」や「行政書士」などがありますが、難の中では最も高い難易度の試験と言えるでしょう。

 合格率約6.5%と低い
 試験実施回数年に1度きり
 試験形式マークシート形式である
 勉強時間最低600時間~1,000時間とそこまで長くない
 試験科目科目難易度は比較的低い

2. 合格率の推移

直近10年間の平均合格率は6.5%です。毎年、概ね6%~7%の水準で推移していますが、2015年の2.6%のように、飛び抜けて低い合格率の年もあります。

この低い合格率を見てしまうと、社労士試験が「公認会計士試験」や「税理士試験」よりも難しいのでは?と感じるかもしません。

確かに合格率は試験の難易度の主要なバロメーターの1つですが、それが全てではありません。科目の範囲や難易度であったり、受験生のレベルであったり、試験の形式を考慮する必要もあります。

例えば、社労士試験は、他の高難易度試験と比べて学習範囲が狭いと言えます。例えば、不動産鑑定士試験であれば、基礎レベルを習得するまでに1日5~6時間の勉強をして、インプットの完成までにだいたい1年前後かかります。一方、社労士試験の場合、1日3~4時間の勉強で3ヶ月前後でインプットを終えることができます。

また、社労士試験では「理解」よりも「暗記」に比重が置かれた問題が出題されるため、暗記の精度を高めることで自然と合格可能性が高まります。つまり、計算問題のように「ハマり問題」のせいで1年を棒に振るようなことは少なく、実力が合格に直結しやすくなっています。

さらに、社労士試験はマークシート形式の試験ということもあり、受験生のレベルが全体的に低いという特徴もあります。

したがって、合格率が低いため「合格には運の要素も必要」と考えてしまいがちですが、「単なる暗記ではなく、理解を伴った暗記をする」ことで合格可能性がかなり高まると思います。

3. 合格者の属性

社労士試験に合格をした人の属性情報(男女比・年齢構成・職業分布)は下記の通りです。なお、各チャートは「社会労務士試験オフィシャルサイト」のデータに基づきます。

(1) 男女の割合

男性と女性の比率が2:1と、男性の方が多いですが、他の国家資格と比べると女性の合格者が多い資格となっています。

(2) 年齢分布

30代と40代が合格者の大半を占めます。以前と比べると、50歳以上の人の合格者の割合が増えています。

(3) 職業分布

ほとんどの人が働きながら受験をしているということが分かります。

4. 平均的な強時間

社労士試験の合格レベルに達する勉強時間は600時間~1,000時間が標準的で、インプット作業に300時間~400時間、アウトプット作業に300時間~600時間の配分になります。

勉強時間の振れ幅の要因は「学習期間の長短」です。学習期間が短く、1日当たりの勉強時間が多いほど、暗記型の試験である社労士試験には有効です。特にアウトプットは短期間に何度も問題集を解き直すことで、安定した記憶に繋がり、学習効率が高まります。

理想は、本試験の前年の秋頃にインプット作業を始め、1日に1~3時間の勉強を続け、本試験の年の春までインプット作業を完成させます。4月から直前期にかけては1日に3時間以上の勉強時間を確保し、過去問や問題集を解き直します。

よく間違える問題については、自分ノートを作成し、それを通勤時間などを利用して読み返すことで効率的な勉強ができるでしょう。

5. 受験資格

(1) 学歴によるもの

  • 大学、短大、高等専門学校(5年制)の卒業者
  • 大学、高等専門学校(5年制)の学生うち、一般教養科目の修了かつ62単位以上を修得した者
  • その他の一定の卒業者等

(2) 実務経験(職歴)によるもの

  • 健康保険組合等に役員又は従業員として3年以上従事した者
  • 地方公共団体の公務員等として行政事務に3年以上従事した者
  • 社労士・弁護士事務所で3年以上の補助業務に従事した者
  • その他一定の者

(3) 他の資格によるもの

  • 税理士試験、司法書士試験、情報処理技術者試験等の一定の国家試験に合格した者
  • 司法試験予備試験等に合格をした者
  • 行政書士となる資格を有する者

●受験料

9,000円

●試験科目

社労士試験は「択一式」と「選択式」の2つから構成されています。

試験科目択一式選択式
労働基準法及び労働安全衛生法10問(10点)1問(5点)
労働者災害補償保険法10問(10点)1問(5点)
雇用保険法10問(10点)1問(5点)
労務管理その他の労働に関する一般常識10問(10点)1問(5点)
社会保険に関する一般常識1問(5点)
健康保険法10問(10点)1問(5点)
厚生年金保険法10問(10点)1問(5点)
国民年金法10問(10点)1問(5点)
合計70問(70点)8問(40点)

●合格基準

選択式試験及び択一式試験のそれぞれの総得点が合計基準点を超え、かつ、それぞれの科目につき合格基準点に越えること。

なお、合格基準点は各試験の合格発表日に公表されます。

●試験科目の免除制度

一定の公務員又は日本年金機構若しくは全国健康保険協会の従業員等で一定の者については、一部の科目が免除されます。

※詳細はオフィシャルサイトより確認をしてください。
試験科目の免除|社会保険労務士試験オフィシャルサイト

●試験免除者

弁護士(弁護士となる資格を有する者を含む。)は社労士試験を経由せずに、社労士になることができます。

●試験の日程

1.試験実施官報公告4月中旬
2.受験申込期間4月中旬~5月末
3.試験期間8月の第4日曜日
5.合格発表11月の中旬

●関連情報

社労士試験制度|厚生労働省HP
社労士試験オフィシャルサイト

社労士の仕事や魅力、将来性

3. 就職先

社労士の仕事内容

社労士試験に合格した人の働き方としては、基本的には社労士事務所での就職がスタートになります。

もちろん、会計事務所やコンサルティングファーム、事業会社からの求人募集もそれなりにありますが、これらの会社は「社労士としての十分な経験がある人」を対象としていますので、試験合格者のキャリアは「社会保険労務士事務所での就職」から始まると考えてもらって問題ないと思います。

1. 業務の多様化

では、社労士事務所ではどんな仕事をしているのでしょうか? 実は最近の社労士事務所は、その業務内容が多様化してきています。

一昔前の社労士の仕事と言えば、独占業務である「労務関係書類の作成」や「給与計算書類の作成」、「助成金の申請代行」などが業務のほとんどを占めていました。

ところが最近では、そのような定型業務は業務の差別化が難しいということもあり、価格競争が進み、あまり儲からなくなってきました。

一方、近年では、働き方改革や国際競争の激化、成果主義の導入などにより、社会や外部環境が変化し、企業を取り巻く環境も大きく変化をしています。そして、この変化が人事や労務に関するコンサルティング業務の需要の増加に繋がっています。

例えば、人事や労務に関するコンサルティング業務には次のようなものがあります。

① 人事評価制度の改定
② 労働者の解雇に係る対策と対応
③ 退職金制度の構築又は再構築
④ 就業規則の改定

2. デリケートな仕事

これらの業務に共通するのが、非常にデリケートな内容だということです。

このようなデリケートな業務は、一般的に、社内の人間で対応をするよりも、外部に任せた方が良いことが多いものです。そのため、労使の仲介役となり得る「労務の専門家である社労士」にその依頼が集まる傾向にあります。

したがって、最近の社労士事務所では、従来型の書類作成・申請業務に加え、人事や労務のコンサルティング業務をする事務所が増えてきています。

なお、このような労務に関するコンルティング業務は、比較的規模の大きな社会保険労務士事務所や経験値の高い社会保険労務士に依頼が集中する傾向にあります。

社労士の魅力

社労士は労務のスペシャリストであり、近年その重要性が増している職業の1つです。ここでは、その社労士の魅力を様々な角度からお話します。

1. 仕事の専門性

社労士は、日本で唯一認められた労務のスペシャリスト(国家資格者)です。

以前は「労務関係書類の作成」といった書類の作成者としてのイメージが強かった社労士ですが、近年は、労使間のトラブルを解決したり、企業の経営を人事面から改善するために、退職金制度や人事評価制度を導入するに当たっての、労務の専門家としての存在意義が高まっています。

このように、労務に関しての高度な知識を有することから、顧問先からは「先生」と呼ばれることも多く、自分が専門職業家であることを強く認識することができます。

2. 経営者と従業員の架け橋

基本的に、経営者と従業員は利益相反の関係にあります。

例えば、経営者は、できるだけ従業員を安く雇用し、一方で、高いパフォーマンスを期待します。景気や事業の動向によっては、できるだけ人員もフレキシブルに調整したいと考えます。

一方、従業員は、できるだけ給与は高く、適当な責任感の下で、適正量の仕事をしたいと考えます。また、景気の動向とは無関係に、できるだけ安定して働きたいと思っています。

したがって、経営者と従業員の利益は相反しますが、会社は利益を生み出す組織である以上、労使間のトラブルは最低限に抑え、できれば両者が前を向いて協働をする必要があります。

そして、この、利益相反する両者をつなぎ留め、むしろ協働する関係になるように助言し、経営者に語り掛けることができるのが、社労士です。つまり「経営者と従業員の架け橋たる仕事」というものが社労士の魅力の根底にあると言えるでしょう。

人事の専門家だからこそ、経営者も耳を傾けてくれるものであり、そこに専門家としてのやり甲斐があります。

3. AIに代替されにくい業務

AIの仕組み

これからの社労士に求められている仕事は「労務のコンサルティング」です。

近年は法律的にも、世論的にも労働者保護の動きが強くなっているため、アルバイトやパートであっても安易に解雇をすることができませんし、労働者が不利に働くようなこと(一方的な給与の減額など)は認められません。

一方で、昨今の激しい国際競争の中で企業が生き残っていくためには、「雇用の調整」による組織再編や「人事評価制度や退職金制度の見直し」による人件費の改善など、労働の調整が必要となり、必然的に労務の知識が必要となります。

このような雇用の調整や人事評価制度の見直しなどは、説明責任が問われるため、AIでは代替できません。(なぜなら、AIは最適解を出すことはできても、その過程を説明することができないからです。)

もちろん、行政書類の作成代行や申請代行などは、Webサービスの進化などにより取って代られる可能性のある仕事ですが、人と人とが密に関わる「労務」に関する業務はまずAIにとって代われるものではないと言えます。

4. 女性も活躍しやすい

社労士業界は他の業界と比べ、圧倒的に女性の割合が高い業界です。開業社労士の1/3が女性ということからもそれを伺い知ることができます。

そもそも社労士の仕事はコンサルティング業務を除けばその差別化は難しいため、経営者に好かれるかどうか、つまり営業力が大きく成功の鍵となります。

女性は表情や気配り、きめ細やかさ、丁寧さなど、男性より優れた点が多くあるため営業に強く、開業には向いているかもしれません。

●年収

  • 独立・開業:0円~5千万円
  • 勤務社労士:200万~500万