中小企業診断士と中小企業診断士試験

2018年12月17日

中小企業診断士は、日本で唯一経営コンサルタントとして認められた国家資格です。近年は、AIに代替されにくい資格として知名度が急上昇しており、受験者・合格者ともに増えている注目の資格です。

1. 中小企業診断士とは?

中小企業診断士とは、中小企業支援法において「中小企業の経営診断の業務に従事する者」として定められた国家資格です。現時点で日本には約27,000人の中小企業診断士がいます。

(1) 中小企業診断士の独占業務

中小企業診断士には独占業務がありません。ただし、中小企業診断士でないものが「中小企業診断士」と名乗ることはできません。

(2) 中小企業診断士の資格業におけるポジション

中小企業診断士の資格業界におけるポジションは、正直ぱっとしません。

中小企業診断士の資格業界におけるポジション
中小企業診断士の資格業界におけるポジション

知名度が低いこと、その価値を経営者が信用していないこと、独占業務がないこと、他の侍業からも信頼されていないこと、などがその理由として挙げられます。特に独占業務がないのは致命的です。

(3) 中小企業診断士の仕事

中小企業診断士の仕事は大きく次の5つです。ただし、主たる収入源は「診断業務」と「経営指導業務」と「セミナー業」の3つであり、売上の大きな人はほとんどがセミナー業によると聞きます。

  1. 診断業務
    診断業務とは、企業の経営状態を診断し、診断書を作成・説明する業務です。
  2. 経営指導(経営コンサルティング業務)
    経営指導とは、企業の経営戦略(事業戦略)を立案し、又は、改善提案をする業務です。
  3. 調査研究(マーケティング業務)
    調査研究とは、特定の地域や業界について多面的に分析をするマーケティング業務です。
  4. 講演・教育訓練業務(セミナー業)
    講演・教育訓練業務とは、主に経営者に対して経営戦略や事業戦略について講義を行う業務です。
  5. 執筆活動(執筆業)
    執筆活動とは、業務から得た専門知識を他へ還元するために行われる業務です。

(4) 中小企業診断士の年収

中小企業診断士の年収は、だいたい250万円~650万円程度がボリュームゾーンです。セミナー主体で大手企業と繋がりのある人は2,000万超という話を聞きますがそういった人は稀でしょう。

古株で人脈のある人、もともと経営コンサルタントとして有名だった人は別として、実務経験の無い人が中小企業診断士の資格だけ持っていても厳しいのが現実です。

様々なサイトで年収1,000万円超が全体の25%超もいると中小企業診断士試験の受験を煽っていますが、それは誇張です。今から15年も前の平成17年度の統計データで、回答者も登録者8,376人のうち1,207人と全体の15%にも満たない回答結果を持ち出しても、実態を正確に表しているとは言えないのではないでしょうか。

年収回答数割合
300万円以内302人25.0%
300万円超 500万円以内190人15.8%
500万円超 800万円以内236人19.6%
800万円超 1,000万円以内161人13.3%
1,000万円超 1,500万円以内177人14.7%
1,500万円超 2,000万円以内73人6.1%
2,000万円超 2,500万円以内25人2.1%
2,500万円超 3,000万円以内18人1.5%
3,000万円超25人2.1%
合計1,207人100%
H17年度アンケート結果による中小企業診断士の年収

アンケートの調査について

  • 調査対象:会員および準会員(8,376名)に対する郵送法
  • 調査時点:平成17年9月
  • 回 答 数:4,649名(回答率55.5%)

(5) 中小企業診断士になる方法

中小企業診断士になるまでの流れ
中小企業診断士になるまでの流れ

中小企業診断士と名乗るためには、診断士試験に合格(又は養成課程を修了)し、15日間の実務補習を経て、中小企業診断士として登録される必要があります。

  1. 2次試験合格 → 実務補習 → 登録(主要ルート)
  2. 2次試験合格 → 診断実務従事 → 登録
  3. 登録養成機関が実施する養成課程を修了 → 登録

また、5年ごとに資格の更新登録をする必要があり、その際は、原則として①専門知識補充要件と②実務要件の2つの要件を具備している必要があります。仮に、診断助言業務等に従事していなければ再度15日間の実務補習を受ける必要があります。

  • 実務補修は15万円程度の費用がかかります。

(6) 中小企業診断士の将来性

ちまたではAIに代替されにくい資格「中小企業診断士」としてスポットライトを浴びていますが、個人的に以下の理由からそれほど将来が明るいとは思いません。

  1. 独占業務が無い
  2. 専門性が低い
  3. 市場が供給過剰
  4. 必要とする経営者が少ない

2. 中小企業診断士試験の概要

中小企業診断士試験は年に1回、3段階式の試験により実施され、12月末に最終合格者の発表があります。

(1) 中小企業診断士試験の流れ

中小企業診断士試験の流れ
中小企業診断士試験の流れ

1次試験では7科目によるマークシート形式で試験があり、例年8月初旬に実施されます。

2次試験は4科目による筆記試験が10月中旬に、12月に面談方式による口述試験が実施されます。

(2) 中小企業診断士試験のスケジュール

中小企業診断士の受験スケジュール
中小企業診断士の受験スケジュール

基本的には、本試験の前年の9月頃から勉強を始め、4月頃までにインプットが完成し、8月まで本試験に向け実力を上げていくといった感じで勉強を進めます。

イベント時期
1次試験 申し込み5月初旬~下旬
     本試験8月の初旬
     合格発表9月の初旬
2次試験 申し込み8月の下旬~9月上旬
     筆記試験10月の中旬
     合格発表12月の初旬
     口述試験12月の中旬
     合格発表12月の下旬
中小企業診断士の試験スケジュール

(3) 受験資格と受験料

中小企業診断士試験には受験資格はありません。

受験料は一般の国家資格の試験と比べてやや高くなっています。

  • 1次試験:13,000円
  • 2次試験:17,200円

(4) 中小企業診断士の試験科目

診断士試験の試験科目は1次試験と2次試験では、知識としては同じ内容ですが、毛色が全く異なります。

1次試験

1次試験は8月の初旬に土日2日で計7科目が実施されます。

日程試験時間配点試験科目
1日目午前 1時間 100点経済学・経済政策
午前 1時間 100点財務・会計
午後 1時間半100点企業経営理論
午後 1時間半100点運営管理
2日目午前 1時間 100点経営法務
午前 1時間 100点経営情報システム
午後 1時間半100点中小企業経営・中小企業政策
中小企業診断士試験の1次試験のスケジュール

2次試験:筆記試験

2次試験は10月の中旬に1日で計4科目が実施されます。

試験時間配点試験科目
午前 1時間20分100点組織(人事を含む)を中心とした経営の戦略および管理に関する事例
午前 1時間20分100点マーケティング・流通を中心とした経営の戦略および管理に関する事例
午後 1時間20分100点生産・技術を中心とした経営の戦略および管理に関する事例
午後 1時間20分100点財務・会計を中心とした経営の戦略および管理に関する事例
中小企業診断士試験の1次試験のスケジュール

2次試験:口述試験

筆記試験の内容を基に面談形式で口頭試問が行われます。

(5) 合格基準

1次試験及び2次試験(筆記)ともに、①総点数基準と②最低得点基準の両方を満たすことが必要です。

  1. 総得点基準
    全7科目の合計得点が、総得点の60%以上(420点以上)であること
  2. 最低得点基準
    7科目のうち、1科目も40%未満でないこと

なお、1次試験では科目免除制度が採用されており、一定の国家資格者と前年又は前々年の科目合格者については、受験申し込みの際に、科目免除を申請をすることで科目免除を受けることができます。

科目免除を受けた場合、その科目は60%の得点をしたものとして取り扱われます。

① 科目合格者の合否判定

1次試験の不合格者については、科目合格の判定が行われます。

1次試験に不合格であっても、60%以上の得点をした科目は「翌年度」及び「翌々年度」において科目免除の申請をすることができます。

② 有資格者による科目免除制度

国家資格や一定の職務経験を有する場合、科目免除の申請を行うことができます。

試験科目免除される資格等
経済学・経済政策経済学の教授等・経済学博士・一定の公認会計士・不動産鑑定士等
財務・会計公認会計士等・弁護士等・税理士等
経営法務弁護士等
経営情報システム技術士等・ITストラテジスト・システムアナリスト・応用情報技術者
ソフトウェア開発技術者・第一種情報処理技術者・システム監査
情報処理システム監査・プロジェクトマネージャ・システムアーキテクト
アプリケーションエンジニア・特種情報処理技術者
1次試験の免除科目とその資格等

(6) 中小企業診断士試験の合格率の推移

中小企業診断士試験の1次試験と2次試験の合格率の推移は次の通りです。ここ2年ほど1次試験の合格率が異常です。

2次試験は筆記式と口述式の2つの試験から構成されていますが、口述式は実質的に100%の合格率のため、2次試験の合格率=筆記式の合格率と考えて問題ありません。

(7) 中小企業診断士試験の難易度

中小企業診断士試験は合格率は一次が30%、二次が20%程度とそれほど低い合格率ではありませんが、合格基準がグレーのため、なかなか難しい資格試験となっています。

特に二次試験は模範解答が公開されず、どの部分がどのくらいの点数となったのかが分かりませんので、下記の「ふぞろいの~」を購入して勉強するほかありません。

ふぞろいな合格答案プロジェクトチーム
ふぞろいな合格答案
(エピソード13;2020年版)

(8) 勉強方法と予備校

色々な予備校はありますが、診断士試験の特性やコスパを考えれば、スタディングが中小企業診断士試験の王道になります。

3. 最後に

ここ数年、中小企業診断士は代替されにくい資格として脚光を浴びていますが、他方で資格試験の内容や実際の仕事内容、経営者からの話を聞いている限り、その存在価値は疑問を感じるところではあります。

中小企業診断士として、経営コンサルタントとして働くのであれば、経営者に違い税理士や会計士、社労士、行政書士なども目指すとその本質的な価値を発揮できるかもしれません。