ここでは不動産鑑定士の仕事、年収そして将来性についてお話します。あまりその詳細が知られていない不動産鑑定士について、そのリアルな現状をお話します。
目次
1. 不動産鑑定士の仕事
不動産鑑定士の仕事は不動産の価格や賃料の評価を行うことにありますが、一般的には次の4つの仕事に分類されます。
(1) 公的評価
公的評価とは、国や地方自治体などの公的な機関から依頼される不動産鑑定評価業務のことをいい、代表的なものには次のものがあります。
- 地価公示業務:1件6万円前後
依頼者:国
仕事内容:毎年1月1日時点における土地価格の査定 - 地価調査業務:1件6万円前後
依頼者:都道府県
仕事内容:毎年7月1日時点における土地価格の査定 - 固定資産税評価業務:1件6万円前後
依頼者:市町村
仕事内容:3年に1度、固定資産税評価額の査定根拠となる土地の価格の査定 - 相続税路線価等意見書作成業務:1件200円前後
依頼者:国税庁(税務署)
仕事内容:相続税路線価と借地権割合の査定 - 土地取得費用査定業務:1件数十万円
依頼者:国、地方自治体
仕事内容:公共用地のための土地買収のための査定根拠
(2) 証券化評価
証券化評価業務とは、不動産の証券化スキームにおいて必要とされる不動産鑑定評価業務です。近年の低金利政策の反動で急拡大している業務です。
不動産証券化評価業務は、不動産の監査業務に近いものになります。つまり、証券化された不動産の適正価値を査定し、それを証明するところに不動産鑑定士の存在意義があります。
(3) 民間評価(会社)
民間評価(会社)とは、民間企業から依頼される鑑定評価をいいます。その評価種類は多種多様であり、例えば次のような業務があります。
- 売買価格の参考のための評価業務:1件数10万円前後
依頼主:一般法人の社長・上場企業の部課長レベル
仕事内容:売買価格の参考のため、適正時価を査定する業務 - 減損会計の適用に係る評価業務:1件数10万円前後
依頼主:上場企業の財務担当者
仕事内容:減損会計を適用する場合における適正時価を査定する業務 - 担保評価業務:1件10万円前後
依頼主:金融機関の担当者
仕事内容:融資を実行する際の担保価値の把握
(4) 民間評価(個人)
民間評価(個人)とは、個人から依頼される鑑定評価をいいます。上記の3つの評価と比較すると数は非常に少ないでしょう。また、依頼目的は多くの場合次の2つに限定されます。
- 親族間・同族会社間売買における適正時価の査定:1件数十万円
依頼者:不動産オーナー又は非上場会社のオーナー
仕事内容:相続税対策又は法人税対策のための適正時価の査定 - 相続財産の適正時価の査定:1件数十万円前後
依頼者:富裕層
仕事内容:相続税財産評価基本通達6を適用した時価評価
2. 不動産鑑定士の年収
不動産鑑定士の年収は「働く業界」と「職場の規模」によって差があります。
働く場所 | 標準的な年収 | 最高 |
---|---|---|
不動産鑑定士事務所で働く場合 | 400万~900万 | 1,500万~2,000万 |
一般企業に転職する場合 | 400万~1,500万 | 数千万円 |
独立・開業する場合 | 700万~1,500万 | 2,000万 |
(1) 事務所規模が与える影響
どこの業界でもそうですが、不動産鑑定業界も同様で、事務所規模が大きくなればなるほど給与水準は高くなり、福利厚生は良くなります。大中小と下がるにつれ、年収が100~200万円ずつ下がるイメージです。
なお、大手は賞与が2~10か月と多いため、事業年度によって年収が上下する傾向にあります。
(2) 勤続年数・役職が与える影響
最近は、鑑定士のサラリーマン化が激しく、もはや士業ではなくなってきています。そのため、会社の中での役職が年収に直結してきます。
(3) 無資格者(補助員)の年収について
資格業では無資格者は「補助者」と位置付けられ、有資格者のアシスタント業務を行います。一般的に補助者の年収は低く、大手以外であれば一般事務員とあまり変わりなく、だいたい200~300万円程度が相場になります。
(4) 実務修習費用の負担について
不動産鑑定士試験に合格をすると、実務経験を1~2年積んだ後に「実務修習」を受けることになります。この実務補修は学科と演習から構成されており、それぞれ30万円、90万円ほどかかります。
この実務修習費用の負担については、事務所によって差がありますが、一般的に規模の大きな事務所ほど事務所負担で対応してくれるところが増えます。
規模 | 学科(30万ほど) | 演習(90万ほど) |
---|---|---|
大 | 事務所 | 事務所 |
中 | 事務所 or 個人負担 | 事務所 |
小 | 個人負担 | 事務所 |
大学 | 個人負担 | 個人負担 |
(5) 景気と年収
一般的に、不動産鑑定業界は「不況に強い」と言われます。確かに不況の場合でも、企業の倒産や破産に係る不動産鑑定評価が生じたりしますし、公的評価は毎年行われますので、仕事が無くなることはありません。そういった意味ではとても安定しているといえます。
ただし、近年は収益の割合が公的評価よりも民間評価の方が多くなってきているため、不況になると民間由来の不動産鑑定評価の件数が減りますので、ボーナス減を通じた年収の減少は起こります。
3. 大手不動産鑑定士事務所
不動産鑑定会社では、①日本不動産研究所、②谷澤総合研究所、③大和不動産鑑定という3つの大きな不動産鑑定会社があります。
初年度年収が200万円が当たり前の業界の中でも、補助者で400万円~500万円と好待遇で、鑑定士もなると600~900万円とそれなりの収入が保障されているため、人気があります。
これら大手について簡単にその概要を触れておきます。
(1) 勤務時間と残業時間
定業界全体として、決算期(2月~3月)は忙しく、月当たりの残業時間は50~100時間となります。土日出勤も当たり前といった感じです。それ以外の時期はだいたい月当たり10~30時間程度の残業と、プライベートとの両立が可能です。
(2) 大手に採用されやすい人の特徴
大手に入る場合に有利な要素は次の通りです。普通の就職活動とあまり変わりありません。
- 年齢が若い
20代中盤までなら大きなアドバンテージになります。
30代前半までなら他にスキルがあれば採用されやすくなります。
30代後半になると技能などのマッチングが必要です。 - ITスキルが高い
比較的重宝されます。 - 語学力がある
TOEIC850以上は評価されます。 - 社会人経験がある
意外と評価されます。
金融機関や不動産会社以外にも、建築業者、IT、事業会社など様々な社会人経験を評価する風土があります。 - 性格・人柄
結局は素直・誠実が一番好かれます。就職後もこれが会社人生の楽しさを左右します。 - 風貌・恰好
とにかく清潔感が大切です。 - 不動産鑑定士試験に合格をしている
基本は合格者が有利です。 - 学歴が良い
良いに越したことはありません。
4. 不動産鑑定士の将来性
ここではいくつかの視点から不動産鑑定評価業務の将来性を考えます。
(1) 市場からの不動産鑑定評価業務
不動産はその額が大きいため、不動産鑑定士による評価が必要となる場面は多く存在します。特に地価公示や地価調査は、重要な経済指標の一つとされています。
また、近年は不動産証券化ブームにより、証券化案件が増えており、元来は自転車操業の不動産鑑定業界も、定期収入を得ることができるようになり、その原資により多様な業界にアタックしているところもあります。
(2) AIによる代替可能性
個人的な見解としては、不動産鑑定評価業務が無くなることはないと思っています。理由は2つ、①不動産情報の全てをデータ化するのは不可能だから、②そもそも不動産鑑定評価業務は価格を算出することではなく、不動産の価格形成過程を説明することが仕事だから、です。
① 不動産情報の全てをデータ化するのは不可能
一般的に、不動産取引は個人的な事情を背景に売買・賃貸されることが多いですが、それらの「無形な情報」をデータベース化するのは不可能です。
② AIは理由(過程)を説明できない
基本的にAIとは「統計」だり、その過程は説明できません。
一方、不動産鑑定評価の本質は価格の算出ではなく、その価格形成過程の説明にあります。この点に違いがあります。
5. 最後に
不動産鑑定士は専門性が高く、仕事も「InとOut」があるため、なかなか面白い仕事です。