税理士は一般の人にもなじみのある資格です。高所得を狙え、日本全国どこでも働くことができ、独立開業により年収3,000万円超も夢ではありません。その一方、少子高齢化、中小企業者の減少、クラウド会計の台頭により、業界全体としてはレッドオーシャン化が進み、以前よりも儲からない資格にもなっています。
とはいえ、その資格の立ち位置は今でも侍業の胴元たるポジションにあり、需要はまだまだあります。ここでは、その税理士と税理士試験の概要についてお話をしています。
目次
1. 税理士とは?
税理士とは、税金の専門家として国に認められた国家資格です。
(1) 税理士の独占業務
税理士は、次の3つの税理士業務を独占業務として税理士法により保護されています。この3つの業務は有償・無償を問わず、税理士でないものは行ってはならないとされる「無償独占業務」とされており、非常に強固に保護されています。
- 税務代理・・・租税に関する申告等の代理・代行
税務官公署に対する租税に関する法令若しくは行政不服審査法の規定に基づく申告、申請、請求若しくは不服申立てにつき、又は当該申告等若しくは税務官公署の調査若しくは処分に関し税務官公署に対してする主張若しくは陳述につき、代理し、又は代行することをいいます。 - 税務書類の作成・・・申告書等の作成
税務官公署に対する申告等に係る申告書、申請書、請求書、不服申立書その他租税に関する法令の規定に基づき、作成し、かつ、税務官公署に提出する書類で財務省令で定めるものを作成することをいいます。 - 税務相談・・・税務に関する相談など
税務官公署に対する申告等、第一号に規定する主張若しくは陳述又は申告書等の作成に関し、租税の課税標準等の計算に関する事項について相談に応ずることをいいます。
(2) 税理士の資格業におけるポジション
税理士は資格業界において「胴元」としてのポジションにいます。
会社の経営者や個人事業主に最も近い位置にある専門家は間違いなく「税理士」であり、ほとんどの侍業の仕事は税理士を起点に生じています。案件に応じて弁護士や宅建士、社労士、司法書士、不動産鑑定士などを紹介するの通例です。
(3) 税理士になる方法
税理士となるためには、日本税理士会の名簿に登録される必要があります。日本税理士会の名簿に登録されて初めて「税理士」と名乗ることができ、税理士業務を行うことができます。
この税理士として登録をするためには、税理士試験に合格をし、2年間の実務経験を有する必要がありますが、一定の資格又は職歴がある場合には、その試験や実務経験が免除されます。
ルート | 内容 | 税理士試験 | 実務経験 | 登録割合 |
---|---|---|---|---|
試験 | 税理士試験の5科目合格 | 〇 | 〇 | 45% |
院免 | 試験3~4科目合格+1~2科目院免 | 〇 | 〇 | 38% |
国税OB | 税務署における職務経験 | – | – | 4% |
他資格 | 公認会計士または弁護士からの登録 | – | – | 13% |
近年は大学院の使い勝手が増しているため、院免利用の割合が増しており、税理士が飽和状態となっている1つの原因となっています。
(4) 税理士の登録区分
税理士として登録をする場合は次の3つのうちいずれかを選択する必要があります。
- 開業税理士
いわゆる個人事業主である税理士 - 社員税理士
税理士法人の社員(一般企業で言う取締役)である税理士 - 所属税理士
開業税理士または税理士法人の使用人として働く税理士
(5) 税理士の職場と働く時間
税理士資格を持っている人の多くが「税理士法人」又は「税理士事務所」で働いています。近年は独立開業する税理士よりも、使用人税理士として働く税理士が増えています。
一般的に税理士事務所や税理士法人は「激務」と言われ、所得の割に働く時間が多いです。特に法人や個人事業主を顧客とした会計業務主体の税理士事務所はこの傾向が強いでしょう。
一方、税理士の中には、一般企業や国・地方自治体の特別公務員、監査法人などで働いている人がいます。先の通り、税理士法人や税理士事務所での就業は激務の割に薄給であるため、QOLを優先し、企業や自治体などで働く道を選択する人が最近は増えています。
(6) 税理士の年収
税理士としての年収は税理士の登録区分によって異なります。
① 開業税理士
少し古いデータになりますが、開業税理士の年収は下記のような状態であり、大半が1,500万円未満です。経費率を30%とすれば、所得としては1,000万円前後ということになります。
年収 | 割合 | 累計 |
---|---|---|
300万円未満 | 25.1% | 24.0% |
500万円未満 | 15.9% | 41.0% |
700万円未満 | 14.5% | 55.5% |
1,000万円未満 | 14.8% | 70.4% |
1,500万円未満 | 13.4% | 83.8% |
2,000万円未満 | 7.3% | 91.1% |
3,000万円未満 | 5.3% | 96.4% |
5,000万円未満 | 2.6% | 99.1% |
1億円未満 | 0.8% | 99.9% |
1億円以上 | 0.1% | 0.1% |
② 社員税理士
社員税理士の年収は、中小企業の役員と同程度で、1,000万円~2,000万円くらいがボリュームゾーンです。企業の社長(代表取締役)である「代表社員」ともなると数千万円~数億円程度の超高額報酬になることもあります。
③ 所属税理士
所属税理士の年収相場は500万円~1,000万円がボリュームゾーンです。
マネージャー(課長)~ディレクター(部長)クラスになると、中規模程度の税理士法人であれば1,000万円~1,500万円、BIG4ともなると1,500万円~2,000万円程度になるでしょう。
④ 職員(補足)
税理士業界では、税理士とそれ以外の事務員では明確な職制上の違いがあり、対外的にも事務員は「職員」と呼ばれます。
職員の給与は、未経験者で200万円~400万円程度、経験者で300万円~500万円程度が相場です。薄給で激務というのが税理士事務所・税理士法人のスタンダードです。
2. 税理士試験の概要
ここでは、税理士試験の受験資格、スケジュール、合格難易度について紹介しています。
(1) 税理士試験合格までの道のり
税理士試験に合格するためには、まず税理士試験の受験資格を取得するところから始まります。この税理士試験の受験資格には、大きく分けて①学歴、②資格、③職歴の3つがあります。
① 学歴
- 大学や短大等の卒業者で、法律学又は経済学に属する科目を1科目以上履修した者
- 大学3年次以上の学生で法律学又は経済学に属する科目を含め62単位以上を取得した者
- 司法試験、公認会計士試験短答式試験合格者
一般教養科目を調べよう
一般教養科目の中にも意外と「法律学」や「経済学」に該当するものがあるため、文系や教育系、理工系の学部卒の方は、簿記1級の勉強の前に、大学時代の一般教養科目を見直し、該当しそうなものがあれば国税庁へ問合せしてみると良いでしょう。
② 資格
- 日商簿記1級
- 全経上級
③ 職歴
下記の業務経験が2年以上あること
- 弁理士、司法書士、行政書士、社労士、不動産鑑定士としての業務経験
- 税理士、弁護士、公認会計士等の業務補助の経験
- 税務官公署における業務補助の経験
- 銀行等における貸付け等に関する事務の経験
なお、税理士法人(事務所)又は弁護士法人(事務所)以外での「補助業務」は、受験資格となる業務経験には該当しません。資格者としての業務経験が必要となりますので注意しましょう。
(2) 税理士試験のスケジュール
税理士試験は、例年5月に受験の申込みをし、8月に試験が実施され、12月に合格発表があります。
各予備校もこれに呼応するように、9月頃に初学者向けの講座を開講し、1月頃に経験者向けの講座を、5月頃に直前期の講座を開講します。
(3) 受験料
受験料は、他の国家資格と比較しても安い受験料となっています。
受験申込科目数 | 1科目 | 2科目 | 3科目 | 4科目 | 5科目 |
---|---|---|---|---|---|
受験料 | 4,000円 | 5,500円 | 7,000円 | 8,500円 | 10,000円 |
(4) 試験科目
税理士試験の試験科目には、簿記論・財務諸表論・所得税法・法人税法・消費税法・相続税法・国税徴収法・酒税法・住民税・事業税・固定資産税の11の科目があります。
試験の合格には、上記の中から会計科目2科目と税法科目3科目の合格が必要となります。また、税法科目については、少なくとも1科目は法人税法又は所得税法である必要があります。
なお、令和2年度の税理士試験の科目ごとの受験者数は次の通りです。登竜門である簿記論の受験者数が1万人と最多となっています。
科目 | 受験者数 | 合格者数 | 2年度合格率 | (参考) 元年度合格率 |
---|---|---|---|---|
簿記論 | 10,757人 | 2,429人 | 22.6%↑ | 17.4% |
財務諸表論 | 8,568人 | 1,630人 | 19.0%↑ | 18.9% |
所得税法 | 1,437人 | 173人 | 12.0%↓ | 12.8% |
法人税法 | 3,658人 | 588人 | 16.1%↑ | 14.7% |
相続税法 | 2,499人 | 264人 | 10.6%↓ | 11.7% |
消費税法 | 6,261人 | 782人 | 12.5%↑ | 11.9% |
酒税法 | 446人 | 62人 | 13.9%↑ | 12.4% |
国税徴収法 | 1,629人 | 198人 | 12.2%↓ | 12.7% |
住民税 | 381人 | 69人 | 18.1%↓ | 19.0% |
事業税 | 335人 | 44人 | 13.1%↓ | 14.8% |
固定資産税 | 874人 | 118人 | 13.5%↓ | 13.7% |
合計 (延人員) | 36,845人 | 6,357人 | 17.3%↑ | 15.5% |
(5) 合格基準
税理士試験の合格基準は6割以上の正答率と公表されていますが、正当となる基準があいまいであり、また、各回における合格率が実質的に受験者の上位10%~20%前後となっていることから、受験生の中で上位10%に入ることが目標となります。
(6) 勉強方法と予備校
税理士試験の勉強方法は、基本的には大手予備校(TAC又は大原)でカリキュラム通りに勉強をするのが王道です。
理由は、大きく下記の3つですが、特に①と②と③が他の予備校と比べて優れており、また、その点が試験の合否に直結する重要なポイントになるためです。
- 大手予備校は受験・合格のノウハウが豊富
- 参考書が秀逸
- 質問制度が充実している
- 受験仲間が多い
ちなみに、筆者は大原をベースに、TACも直前講座のみ取るような受験勉強をしていました。
(7) 税理士試験の難易度
税理士試験は数多ある資格試験の中でも指折りに難しい「国家試験」です。合格者の平均合格期間を統計的に分析をすると約10年という驚愕のデータもあります。
筆者の個人的感覚としては、税理士試験より難しい試験は「司法試験」くらいではないかと思います。
分類 | 資格 |
---|---|
税理士試験より難しい試験 | 弁護士 |
税理士試験と同じくらいの試験 | 司法書士 |
税理士試験より簡単な試験 | 公認会計士、弁理士、不動産鑑定士 |
(8) 税理士試験の合格率の推移
税理士試験の全科目の合算合格率の推移は次のグラフの通りです。近年は会計科目の合格率の上昇が目立っています。
- ミニ税法:相続・消費・酒税・国徴・住民・事業・固定
- 会計科目:簿記・財表
- 必須税法:法人・所得
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